コラム AWAKES COLUMN

高校球児の増量

2018/08/19

こんにちは。
大阪は、心斎橋、本町、新町近く、西区は北堀江にあるパーソナルトレーニング・コンディショニングトレーニングジム、AWAKES (アウェイクス)の高嶋です。

夏の風物詩でもある夏の高校野球全国大会、今年は100回目の記念大会で、出場校は56校、開催中には毎日、甲子園レジェンドの始球式など、記念大会ならではのいつもとは少し違った大会になっています。

大会も終盤、残すもベスト4というところまでやってきました。
高校野球が終わると、夏休みがもうすぐ終わると感じる、そういう季節感も歴史の長い高校野球の持つ独特の社会的存在感の一つです。

さて、本題ですが、この時期になると各種メディアで出場校の取り組みや出場選手の特徴的な出来事などがストーリー化されて数多く報道されます。

その中でも、気になったストーリーが、ある学校の食事に関する取り組み。

北福岡代表の折尾愛真高校は、「補食」による「食トレ」を実施していると複数のメディアが報道していました。

「体づくり」
「肉体強化」
「スタミナ強化」
「パワー強化」
「夏バテ防止」

まだまだ成長真っただ中の高校生、アスリートであればなおさら消費カロリーは多く、それを補うカロリーの摂取は成長、筋力アップ、パフォーマンスアップには欠かせません。

また、疲労回復の観点からも、バランスの取れたカロリー摂取は大切です。

折尾愛真高校の具体的な取り組みは、一般社団法人・食アスリート協会からの食事に関するセミナーとサポートを受け、昨冬から1時間に一回、茶わん二杯半(500g)の白米をシーチキンなどと一緒に食べ、1日7~8回食べるということをやっています。

「空腹の時間を長くしない」
「失ったエネルギー源をただちに補給する」

成長期のアスリートにとって、大事なことであることは間違いありません。

ただ、私が少し違和感を覚えたのが、その、体重の増量幅と期間。

各種報道によると、5番・野元涼選手は、冬の期間にチーム内最大となる68キロから92キロ、ひと冬で24キロも増量したとのこと。野元選手は、地方大会では投打ともに活躍し、チームでは重要な選手に成長したと報道されています。

この増量について多くのメディアがポジティブな意見で報じています。
「増量に成功」
「増量していく過程を楽しみにしていた」

しかし、179センチ68キロの選手が、ひと冬で24キロ増… というのはやはり少し違和感を覚えます。

この「食トレ」がスタミナやパワーの向上に繋がった事は事実だと思います。
ただ、果たしてこの増量が本当に質の良い、科学的根拠に基づいた理想的な増量であったかは、甚だ疑問です。

私が一番引っかかるのは体重増の量とその期間
ひと冬という事は3~4か月。
そして24キロ…

全米小児学術協会 (American Academy of Pediatrics) の推奨するユースアスリートの体重変化に関する指針によると、
体重を増やしたいアスリートでは、1週間に1~1.5%のペースが最適としています。
これは、カロリー(エネルギー)が効率よく筋肉の成長に繋がるペースを科学的に検証した最適な増量のペースとされているからです。
このペース以上になると、脂肪として体内に蓄積される可能性が高いという数字なのです。

この、1.5%を野元選手の元々の体重と増量にあてはめると、

理想体重(増量)
初週 68キロ
1週目 69.02キロ
2週目 70.06キロ
3週目 71.11キロ
4週目 72.17キロ
5週目 73.26キロ
6週目 74.35キロ
7週目 75.47キロ
8週目 76.6キロ
9週目 77.75キロ
10週目 78.92キロ
11週目 80.1キロ
12週目 81.3キロ
13週目 82.52キロ
14週目 83.76キロ
15週目 85.02キロ
16週目 86.29キロ
17週目 87.59キロ
18週目 88.9キロ
19週目 90.23キロ
20週目 91.59キロ
21週目 92.96キロ

報道では、具体的な期間は明示されていませんでしたが、もし、冬の期間という事であれば3~4か月(12~16週)ですので、92キロへ増量したのが12週目であれば理想体重からは約10キロも、16週目であれば約6キロもオーバーという事になります。

また、急激な体重増加による関節への負担、筋肥大による関節可動域の制限などの整形外科的側面や、
過度なカロリー摂取による消化器系や腎臓、肝臓への負担など内科的側面なども増量時には考慮しなければなりません。

現在では、野元選手は最終的に85キロをキープしているという事です。
179センチ、野球選手という事などを考慮すれば最適な体重ではないでしょうか。

折尾愛真高校の「食トレ」の取り組みは、事実としてパフォーマンスアップに繋がっていると思います。
食アスリート協会の専門家による食事の指導のもと行われた「食トレ」ですので、質、効率、安全面においてしっかり考慮されたプログラムであったと思います。

ただ、報道の仕方、伝え方によっては、
「短期で24キロの増量がパワーアップ、パフォーマンスアップになった」というメッセージが独り歩きし、

“増量 = パフォーマンスアップ”

という、誤解を生みかねません。

短期の増量は、それに伴うリスクがあるという事も、私たちトレーニングを安全に指導する立場の専門家が理解し伝えなくてはいけません。

「白米を大量に食べる事」「増量すること」が独り歩きし美化され過ぎる事のないように、
正しい知識とそれぞれの個人やチームの特徴にあった最善の方法を提供する為に、
わたしたちアスリートに関わる全ての者は、気を付けて情報を伝えないといけないと思います。

また、受け手側の選手はもちろん、コーチやご両親もこの様な情報は表面的にとらえるのではなく、中身をしっかり理解するようにしていただければと思います。

高校球児において、増量 = パフォーマンスアップ ではない

正しい、食事方法、トレーニング方法を取り入れたパフォーマンスアッププログラムは、専門家と共に作りましょう。

参考文献・引用サイト:

Nation’s Pediatricians Caution About Rapid Weight Changes in Youth Athletes. American Academy of Pediatrics. https://www.aap.org/en-us/about-the-aap/aap-press-room/pages/Nation’s-Pediatricians-Caution-About-Rapid-Weight-Changes-in-Youth-Athletes.aspx

Rebecca L. Carl, Miriam D. Jonson, Thomas J. Martin, Council on Sports Medicine and Fitnss. Promotion of Healthy Weight-Control Practices in Young Athletes. J of Pediatrics. 2017; 140 (3): e20171871

補食に白米の肉体強化実った、折尾愛真が春夏通じて初の甲子園. アスレシピ: https://athleterecipe.com/colum/1/articles/201807240000422

炊飯器持ち込んで補食、北福岡大会4強折尾愛真の強さの秘密. アスレシピ: https://athleterecipe.com/colum/1/articles/201807180000680

au Webポータル. https://auone.jp/detail/1/6/10/104_10_r_20180810_1533891022159099

朝日新聞デジタル. 折尾愛真・野元、決勝でも棚越え「楽しい野球実感」: https://www.asahi.com/articles/ASL7R2S6TL7RTIPE005.html

食アスリート協会.  https://www.facebook.com/shokuasu/posts/

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